多次元的な考え方を持たないとこれからはやっていけないとか言ってた気がする
ふと、昔のことを思い出してキーワードをパズルのようにぶん投げると、こんな感じかとAIが撃ち返してくる。いい時代だ。
以下は、事実のキーワードをちりばめてはいるが、AI君の創作である。
ただ、驚くくらいリアリティがあって良い意味でドン引きした。
A氏のちょっと不気味な(褒めてる)雰囲気とかはそっくり。
B氏はごめん、あんまり印象残ってないのでほぼ架空。
ちょっと気にいってしまったので残しておこう。
豪雨決行バーベキューオフ
今から十五年ほど前、まだ「マイミク申請」という言葉が世界のどこかで本気の意味を持っていた時代の話だ。
私は当時、mixiに生息するごく普通の社会人だった。日記は三日に一度、足あと帳には律儀に返事を書くタイプ。そんな私が知り合ったのが、A氏とB氏である。
A氏はハンドルネーム「革命前夜」。プロフィール画像はなぜか黒地に金の龍。日記の内容は自己啓発とビジネス書の引用が中心で、語尾はだいたい「時代は変わる」。
一方のB氏は「まい☆エンジェル」。推しアイドルの笑顔をトップ画像にし、日記の八割はライブレポ、残り二割はA氏の名言集だった。
不思議な縁というのはあるもので、三人とも同じ区内に住んでいた。メッセージのやり取りが続き、「じゃあ一度会いますか」という流れになったのは、ある意味必然だった。
場所は近所の河川敷。バーベキューができる、市民の憩いのスポットだ。
六月の終わり、天気予報は曇りのち一時雨。まあ、多少降ってもタープを張れば何とかなるだろう、という甘い見通しだった。
当日。
私は少し早めに到着した。空は重たく垂れこめているが、まだ雨は降っていない。遠くで少年野球の掛け声が聞こえる。
そこへ、黒いキャリーケースを引いた男が現れた。
「どうも、革命前夜です」
A氏だった。想像以上に背が高く、妙に姿勢がいい。サングラスまでかけている。曇りなのに。
「今日はね、肉だけじゃなくて“未来”も焼きますから」
第一声がそれだった。
やや遅れてB氏が到着する。Tシャツには大きく推しアイドルの顔がプリントされ、首からはライブタオル。手にはペンライト用の小型リュック。
「Aさん、タープ張りますか? いや、Aさんの判断に従います!」
忠犬のような目でA氏を見つめている。
嫌な予感がした。
炭に火をつけ、網をセットし、いざ肉を並べようとした瞬間だった。
――ドバァァァァッ。
まるで合図を待っていたかのような豪雨。
空が裂けたのかと思うほどの勢いで、雨が降り注いだ。三十秒もせずに足元は水たまり、炭はジュッと音を立てて消えかける。
「……解散、ですかね」
私が言いかけたその時だった。
A氏が、ゆっくりとサングラスを外した。
「いや」
一拍。
「このまま、やっちゃいましょう」
え?
B氏の目が輝く。
「さすがAさん! 逆境こそチャンス!」
いや、違う。これはただの豪雨だ。
しかしA氏は本気だった。コンビニ袋から三本のビニール傘を取り出し、一本を私に押しつける。
「雨なんて、所詮は水です。問題は“覚悟”ですよ」
覚悟でどうにかなるレベルの降り方ではない。
結局、私たちは傘を差しながらバーベキューを続行することになった。タープは風でひっくり返り、使い物にならない。
A氏は片手で傘を持ち、もう片手でトングを操るという謎の曲芸を披露している。
ジュウ、と肉が焼ける音。
ザーッ、と雨音。
バチッ、と炭がはじける音。
カオスだった。
「実はね」
A氏が、焼きかけのカルビをひっくり返しながら言う。
「会社を立ち上げようと思ってるんです」
「は、はあ」
「SNS時代の新しいプラットフォームを作る。mixiはもう古い。次は“自分をブランド化する時代”です」
雨水が傘の縁から滝のように流れ落ち、彼の肩を濡らしている。
「具体的にはですね、自己投資コミュニティを――」
横でB氏がうんうんと大きくうなずく。
「Aさんのビジョンは本物なんですよ。僕も出資します!」
「出資って、いくら?」
「えーと、今は遠征費でほぼゼロですが、推しが武道館行ったら……」
その瞬間、強い風が吹き、私の傘がひっくり返った。
私は無言で直す。
肉は半分水浸し、半分炭。味は、正直よくわからなかった。塩なのか雨なのか。
やがて話題はB氏のアイドル追っかけ遍歴に移る。
「先月、東京まで三週連続で行きました! いやあ、認知もらえた気がして!」
「認知?」
「目が合ったんです! 0.5秒くらい!」
豪雨の中で語られる0.5秒の奇跡。
私は焼きそばをすする。水分量が過去最高だ。
A氏はうなずきながら言った。
「それも投資ですよ。感情資本への投資」
「そうなんです! Aさんはわかってる!」
私は、ふと自分がどこにいるのか分からなくなった。
なぜ私は、豪雨の河川敷で、傘を差しながら、半生の肉をかじりつつ、感情資本の話を聞いているのだろう。
やがて炭は完全に力尽き、肉も尽き、私たちはびしょ濡れで撤収した。
「今日は伝説ですね」
A氏は満足げだった。
「一生忘れません!」
B氏は本気だった。
私は、風邪をひかないことだけを祈った。
その夜。
私はなんとなくmixiを開いた。足あとが二つ、ぴたりと並んでいる。
まずA氏の日記。
タイトル:嵐を味方にする男たち
本日、豪雨の中でBBQを敢行。
困難な状況でも挑戦をやめない“同志”と未来を語り合う。
雨は試練。試練は成長。
新会社構想も大きく前進。
このメンバーなら、日本を変えられる。
コメント欄には、B氏の書き込み。
今日は人生最高の日でした!
Aさんのビジョンに震えました!
次は晴天の下で、もっと大きな夢を語りましょう!
私は苦笑した。まあ、ポジティブなのは悪くない。
続いてB氏の日記。
タイトル:神回BBQオフ!!
Aさんと○○さん(←私)と奇跡のオフ!
豪雨とか関係ない! むしろエモい!
Aさんの会社、絶対成功する!
僕も全力でサポートします!
あと推しの新曲が神!!
そこまでは、まだ微笑ましかった。
だが、翌朝。
通勤電車の中で、私は再びmixiを開いた。
A氏の新しい日記が更新されていた。
タイトル:裏切り
昨日のオフ会で、ある人物の“温度差”を感じた。
本気で世界を変えようとしている人間と、ただ傍観している人間。
覚悟のない者とは、もう道は交わらない。
これからは“選ばれた仲間”だけで進む。
嫌な汗が背中を伝う。
コメント欄には、B氏。
Aさん、僕はずっとついていきます!
中途半端な人は置いていきましょう!
さらにB氏の日記も更新されていた。
タイトル:決断しました
昨日のBBQで、自分の甘さを痛感。
覚悟を決めます。
Aさんの会社にフルコミットするため、
仕事を辞める方向で動きます。
私は思わず声を漏らした。
「えっ」
画面を更新する。
A氏からメッセージが届いていた。
君はどうする?
たったそれだけ。
豪雨の河川敷。
傘を差しながら焼いた肉。
0.5秒の認知。
感情資本。
あの奇妙な時間が、こんな方向に転がるとは思わなかった。
私はスマホを閉じ、窓の外を見た。
空は、昨日とは打って変わって、雲ひとつない快晴だった。
数日後、B氏は本当に退職したらしい。
A氏の会社は、結局どうなったのか、私は知らない。
ただ、二人のアカウントはしばらくして更新が止まり、やがて静かに消えた。
今でも雨の日になると、あの河川敷を思い出す。
傘を差しながら焼いた、あまりにも水っぽいカルビの味を。
そして、あの一言を。
「このまま、やっちゃいましょう」
――あれが、すべての始まりだったのかもしれない。
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