あまりにも俺の想像してたババァすぎて笑った

ババァのキャラだけで今回は採用したwwwwww 


夕暮れ時の団地は、巨大な軍艦が何隻も停泊しているみたいに見える。


俺が住んでいたのは、昭和の空気をそのままコンクリートに閉じ込めたような古い団地だった。その三号棟と五号棟のちょうど狭間、申し訳程度に生えた金木犀の生垣の裏に、その店はある。

看板には「中島商店」と掠れた文字で書いてあるが、俺たちの間では「ババアの城」と呼ばれていた。

そこは単なる駄菓子屋じゃない。小学校の指定胸章や名札、予備の赤白帽といった「学校の必需品」から、誰が使うのかわからないほど毛先の割れた習字の筆、さらには店主であるサト婆が「余ったから」という理由で並べている謎の茶色い物体(自称・手作り黒糖かりんとう。硬度はほぼ鉱石)まで、カオスな品揃えを誇っていた。

俺と、同じ団地の腐れ縁であるタカシとヒロシは、放課後になると吸い寄せられるようにその城へ入城した。

「婆ちゃん、ブタメンにお湯。あと、この『アタリ』の交換」

「はいはい、相撲が始まるまでだよ。若乃花が負けたらあんたらのせいだからね」

婆ちゃんはいつも、ブラウン管の小さなテレビを睨みつけながらそう言った。俺たちは十円の「紐引き飴」で真っ青になった舌を見せ合い、誰が一番長く「コーラシガレット」を咥えていられるかという不毛な勝負に明け暮れていた。そこは俺たちの楽園であり、不可侵の聖域だった。

事件が起きたのは、セミの鳴き声が少しだけ湿り気を帯び始めた、ある夏の日のことだ。

店内のカビ臭い空気と、古い冷蔵庫が唸る低い音。そこに、場違いな「音」が入り込んできた。

カシャン、と小気味いい音を立てて、自動ドアでもない引き戸が開けられたのだ。

入ってきたのは、見慣れない顔だった。

隣町の「城南小」のキャップを被った、色白の痩せた男だ。そいつは俺たちの視線など意に介さず、迷いのない足取りで棚の奥へと進んでいった。

俺の胸の中に、ざらりとした不快感が広がった。

ここは俺たちの場所だ。三号棟の俺と、四号棟のタカシ、五号棟のヒロシ。この「団地住まい」という血族だけに許された聖域に、あろうことか一戸建てが多いあっち側の人間が足を踏み入れた。

それは、自分の家のリビングに知らない親戚が勝手に座っているような、猛烈な「テリトリー」の侵害だった。

「おい、見ろよ。城南の奴だぜ」

ヒロシが声を潜めて言った。タカシもブタメンを啜る手を止め、敵意を隠そうともせずに男を睨む。

男は棚の前で足を止め、じっと何かを見極めていた。

そこにあるのは、サト婆が作った「謎の手作り菓子」のコーナーだ。地元住民でさえ「歯が折れる」と敬遠し、時折、鳩にやるために買っていく物好きがいる程度の、あの茶色い石塊だ。

男は迷わず、その中から一番大きく、一番不気味な形をした塊を手に取った。

「婆ちゃん、これ一つ」

店内に緊張が走った。サト婆もテレビから目を離し、眼鏡をずらして男を見た。

「……あんた、これ食うのかい? 顎が外れても知らないよ」

「いいんです。これが一番『詰まってる』感じがするから」

詰まってる? 何がだ? 殺意か?

俺は思わず立ち上がり、男の前に立ち塞がった。自分でも驚くほど子供じみた、独占欲に突き動かされていた。

「おい、それ、うまいと思ってんのかよ」

俺の問いに、男はゆっくりと視線を上げた。涼しげな、それでいてどこか悟ったような目だった。

「うまいかどうかは、まだわからない。でも、この店で一番『重い』のはこれだ」

「重さで選んでんのかよ! 駄菓子はコスパだろ! 10円でいかに長く楽しめるか……」

「違う」

男は俺の言葉を遮った。

「これは、時間だ。この婆さんが練って、固めて、乾燥させた時間だ。100円でこれだけ密度の高い時間を買える場所は、僕の町にはない」

哲学かよ。

俺たちは呆気に取られた。隣町の奴は、俺たちが毎日無意識に消費しているこの空間を、わざわざ「分析」しに来たというのか。

男は100円玉をカウンターに置くと、受け取った茶色の塊を、こともあろうにその場で口に運ぼうとした。

「待て! 死ぬぞ!」

俺が止めるのも聞かず、男は思い切りそれを噛んだ。

バキッ。

店内に、嫌な乾いた音が響いた。

男の顔が歪む。しかし、彼は飲み込んだ。涙目になりながら、喉を鳴らして「時間の塊」を胃に送り込んだのだ。

「……硬い。でも、後からくるこの……古い畳みたいな匂い。悪くない」

男はそう言い残すと、満足げに店を出て行った。

残された俺たちは、ただ呆然と、閉まった引き戸を見つめていた。

「……あいつ、何だったんだ?」

タカシが呟く。

「わかんねぇ。けど、なんか負けた気がする」

俺は自分の手元にある、いつもの「よっちゃんイカ」を見た。それは安定的で、予測可能な、いつもの味だ。

俺は、この店を、婆ちゃんを、ただの「日常」だと思っていた。けど、あのアウェイから来た男にとっては、ここはわざわざ遠征してまで手に入れるべき「特別な異界」だったのだ。

ふと、テレビから大歓声が聞こえた。

「あぁ! 若乃花が負けちまったじゃないか! あんたたちが騒ぐからだよ!」

サト婆が怒鳴り、俺たちはいつものように「逃げろ!」と叫んで店を飛び出した。

外に出ると、夏の終わりの湿った風が吹き抜けた。

夕闇に沈む団地は、さっきよりも少しだけ、誇らしげな巨大な城に見えた。

俺は走りながら、明日こそはあの「茶色い塊」に挑戦してみようと、密かに決意していた。

あの隣町の野郎に、この場所の「重さ」で負けるわけにはいかないからな。

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