地元の名士は言うこともBigだった

本当にあの時、彼は冷蔵庫とかテレビとかそんなものあたりまえにありますよね?的な感覚で悪気なく聞いてきたので、さすがの自分も状況を理解できたことから怒りよりも、すげーよおめーは・・としか思わなかったww


今回は後半はかなり創作入っているな。まあ、つっこんだネタが弱かったからかな。


でも結構自分としては気に入っている。



 



あの日、僕が足を踏み入れたのは、隣町の住所でありながら、異世界の入り口だったのかもしれません。


幼稚園を卒園して、まだ新しいランドセルの匂いが部屋に残っていた頃のことです。幼稚園時代の友人である「S君」から、家に遊びに来ないかと誘いを受けました。当時の僕は、彼のことを「いつも上品なハンカチを持っている、少しおっとりした奴」くらいにしか思っていませんでした。

待ち合わせ場所の公園から彼の後について歩いていくと、景色が少しずつ変わっていきました。住宅街の突き当たりに、城壁のような、黒ずんだ重厚な石垣が見えてきたのです。

「ここが、僕んち」

S君が指差したのは、門というよりは、もはや「関所」のような巨大な建築物でした。表札には確かに彼の名字が刻まれていますが、入り口がどこにあるのか見当もつきません。

「家の中に、森がある……」

門をくぐった先は、もはや「庭」と呼ぶには広すぎました。手入れの行き届いた松の木、巨大な灯籠、そして何より驚いたのは、池に架かっているのが「橋」だったことです。公園の池を跨ぐような立派な反り橋が、個人の家にあるなんて。

僕は自分の家(築20年の木造アパート)とのあまりのギャップに、ぶったまげるのを通り越して、足がふわふわと宙に浮いているような感覚でした。

S君は慣れた足取りで縁側を通り、長い廊下を抜け、家の裏手へと僕を誘いました。

「ねえ、今日は特別な場所を冒険しよう」

彼がいたずらっぽく笑って言いました。

「『蔵』の探検をしない?」

「クラ……?」

当時の僕にとって、その言葉はRPGに出てくる「地下牢(ダンジョン)」か、あるいは「宝物庫」のように響きました。意味は分からなかったけれど、なんだかワクワクする響きです。僕は二つ返事で「行く!」と叫んでいました。

母屋から少し離れた場所に、白壁のどっしりとした建物が鎮座していました。重い鉄の扉を、S君が小さな体で一生懸命に引くと、中から冷んやりとした、少し湿り気のある空気が流れ出してきました。

そこは、まさに時間を閉じ込めたタイムカプセルでした。

「うわあ……なんだこれ!」

一歩踏み込むと、そこにはカビの匂いと、古い木の匂い、そして言いようのない「歴史」が充満していました。

棚には埃を被った木箱が積み上げられ、壁には何が書いてあるのかさっぱりわからない長い巻物がずらりと並んでいます。床には、なぜか巨大なツボがゴロゴロと転がっていました。

「これはね、じいじのコレクションなんだって」

S君が指差した先には、暗闇の中で鈍く光る「甲冑」が立っていました。

「本物? これ、本物の武士?」

僕は恐る恐る近寄りました。漆黒の胴に、真っ赤な紐。兜のてっぺんには、三日月を模した金色の飾りが誇らしげに輝いています。

「かっこいい……!」

今の時代なら「重要文化財じゃないか?」と震えるところですが、当時の僕はただの冒険者です。僕は落ちていた木切れを刀に見立て、兜の前に跪きました。

「S君、これ、被ってもいいかな?」

「いいよ。でも重いよ?」

二人で力を合わせて、ずっしりと重い兜を持ち上げました。それを頭に乗せると、視界が急に狭まり、鉄の冷たさが伝わってきました。

「どう? 武士に見える?」

「うん、すごく強そう!」

カビ臭い蔵の中で、僕たちは巻物を広げて「宝の地図」に見立てたり、壺の中に秘密の暗号を叫んだりして、時間の経つのも忘れて遊びました。埃の舞う光の中で、古い美術品たちは僕たちの想像力を刺激する最高の玩具でした。

夕暮れ時、蔵の重い扉を閉めたとき、S君がふと思い出したように、ごく当たり前の日常会話として僕に尋ねてきました。

「そういえばさ、君の家の蔵には、何が入っているんだい?」

その瞬間、僕の脳裏には、我が家の唯一の「収納スペース」が浮かびました。

玄関を開けたらすぐに台所。その隣にある、六畳一間の部屋の隅にある……。

「うちはね、蔵なんてないよ」

正直に答えました。すると、S君は目を丸くして、まるで「うちはご飯を食べないよ」と言われたかのような、信じられないものを見る目で僕を見つめました。

「えっ……? じゃあ、お宝はどこにしまっているの?」

彼の純粋すぎる質問に、僕は窮しました。

僕にとっての「お宝」といえば、大事に集めたメンコ、空き瓶の王冠、それから誕生日に買ってもらった超合金のロボットです。それらがどこにあるかといえば……。

「……押し入れ。布団の上」

「オシイレ? フトン?」

S君は首を傾げました。彼にとって布団は「寝るときに家政婦さん(か誰か)が用意してくれるもの」であり、収納場所など意識したことがなかったのでしょう。

「押し入れっていうのはね、こう、扉をガラガラって開けると、秘密の二段ベッドみたいになってるんだ。下には扇風機とかお父さんのゴルフバッグが隠されてて、上にはお日様の匂いがする布団が山積みになってるんだよ。そこに潜り込むと、すっごく温かくて、蔵みたいにカビ臭くないんだ」

僕が身振り手振りを交えて熱弁すると、今度はS君の目がキラキラと輝き始めました。

「すごい! 布団の山? 秘密の二段ベッド? ……それ、蔵よりずっと面白そうじゃないか!」

数日後、今度はS君が僕の家に遊びに来ることになりました。

狭いアパートの階段を上がり、ドアを開けると、彼は「わあ、秘密基地みたいにコンパクトだね!」と(悪気なく)感動していました。

そして僕は約束通り、彼を押し入れに案内しました。

「これが、僕の家の『蔵』だよ」

僕が襖を勢いよく開けると、そこには使い込まれたシーツの匂いと、洗剤の香りが混じった、平和な生活の匂いが詰まっていました。

S君は歓喜の声を上げ、真っ先に布団の山へダイブしました。

「温かい! ふかふかだ! 蔵より全然いいよ、これ!」

彼は僕の超合金ロボットを手に取り、押し入れの二段目で、まるで宇宙船のコックピットにいるかのように夢中で遊びました。

「ねえ、次のお休みも、この『オシイレ』で遊んでいい?」

大豪邸の蔵で甲冑を愛でる少年と、アパートの押し入れで布団に埋もれる少年。

住む世界は全然違ったけれど、あの瞬間、僕たちの価値観は完全に入れ替わっていました。

大人になった今、彼の実家がどうなったかは知りません。けれど、あのカビ臭い蔵の冷たさと、押し入れの布団の温かさを思い出すたび、僕は「豊かさ」って、結局どこで誰と笑っているかだよな、としみじみ思うのです。

ちなみに、後日談。

S君があまりに「押し入れ」を羨ましがったせいで、彼のお屋敷にも特注の「押し入れ風ベッド」が作られたという噂を聞きましたが……さすがにそれは、子供心に作った僕の空想だったかもしれません。

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