多分、H美さんが全面的に正しいと思う。

なんか今回はフィクション味が濃くなった。

H美さんは本当は悪いやつではないことは知ってたんですが、その時は「ガキ」だったんだよね、つまり。 


俺は小学高学年から中二くらいまでとある事情である宗教系の土曜だけの「学校」に行っていた。それというのも物心ついたときから親が日曜は朝からそこの施設へ行くわけで。せっかくの土曜日だというのに「学校」に日中行かないといけない。

俺には相当のストレスであった。

「学校」に行くとちょっとした小さな部屋に机と椅子が4脚あり、あとは本棚に宗教系のテキストがずらりとした場所に監禁。

本を音読させられ、感想を聞かれたりする。クソガキには処刑や拷問に近い。

一緒に参加しているメンツもひどかった。

特にすぐ突っかかってくる同期のH美という女がいた。

こいつは優等生タイプで正論をかざしながら聖書のカドで殴ってくるような暴力と理論の悪いマリアージュみたいな最悪なやつだった。

ただし、こいつの弟はいい加減でだらしなく姉の上澄み部分の残りかすみたいなやつで最高に良いやつだった。

あとはもうなんかあんまり印象にないから省略。

あまりに「本読み」が退屈なのでサボって裏の庭にあるよくわからん実をもいでH美の弟と投げつけあいをしていた時、それは起こった。

「週末は、神様に会う前にまず俺を解放してくれ」

それが、あの狭苦しい『サタデー・宗教・スクール』に通わされていた俺の切実な祈りだった。

物心ついた時から、我が家の日曜は神に捧げられていた。それはいい。だが、なぜその準備運動のために土曜の貴重な半日を、埃を被った宗教施設の小部屋で過ごさなきゃならんのだ。

その部屋は、四畳半ほどの空間に机と椅子が4脚。壁一面の本棚には、読めば徳が積めるらしいが、ガキの俺からすれば睡魔の呪文が書かれたテキストがぎっしり。そこで俺たちは「音読」という名の精神修行を強いられる。

「……汝、隣人を愛せよ……」

「(愛せるかよ、この状況を)」

そんな心境で声を出す。感想を求められれば「すごかったです」の一点張り。まさに処刑、あるいは言葉の拷問。

そして、その拷問をさらに地獄へ変えるのが、同期のH美という女だ。

彼女はいわゆる「選ばれし優等生」だった。背筋をピンと伸ばし、一字一句違わず音読をこなす。彼女の辞書に「サボり」という文字はない。

俺が少しでもあくびをしようものなら、彼女の鋭い視線が飛んでくる。

「ねえ、今の読み方、神様に対して失礼だと思わない? 魂がこもっていないわ」

彼女の正論は、常に物理的な破壊力を伴っていた。喩えるなら、「聖書の角でフルスイングされるような暴力と理論の悪いマリアージュ」。彼女に睨まれるたび、俺の脳内ではページが顔面にめり込む衝撃音が響いていた。

だが、救いはあった。彼女の弟だ。

彼は、H美という完璧な人間を精製した際に出た「余りカス」を寄せ集めて作ったような男だった。いい加減、だらしない、集中力ゼロ。姉の厳格さを完全にスルーして生きるその姿は、この閉鎖空間における唯一の希望の光であり、俺の最高の戦友だった。

ある土曜日。

あまりに本読みが退屈で、俺の精神は限界に達した。H美が「愛の定義」について講師と熱心に議論(という名の自己陶酔)を繰り広げている隙を見て、俺は弟に目配せをした。

俺たちは忍び足で「監禁部屋」を脱出し、施設の裏庭へと転がり出た。

そこには、名前も知らない不気味な赤い実をつける木があった。

「これ、投げたら面白そうじゃね?」

弟がニヤリと笑う。

「聖なる実のぶつけ合いか。罰当たりで最高だな」

俺たちは、その熟れすぎて今にも爆発しそうな実をもぎ、至近距離から投げつけ合った。

ペチャッ、という湿った音と共に、俺のシャツに赤い汁が飛び散る。

「当たった! 呪われろ!」

「お返しだ、天罰を食らえ!」

泥だらけ、汁まみれ。これこそが正しい土曜日の過ごし方だ。神様だって、小難しい本を読んでるガキより、泥遊びしてるガキの方が可愛げがあると思うに違いない。

そう確信した、その時だった。

「……何、してるの?」

背後から、氷点下の声が響いた。

振り返ると、そこには聖書(鈍器)を脇に抱え、般若のような形相をしたH美が立っていた。

弟は一瞬で硬直した。俺の手に握られた、今まさに投げようとしていた「赤い実」が虚しく震える。

「学びの時間を捨てて、そんな卑俗な遊びに興じるなんて……。あなたたち、自分がどれだけ愚かか理解できてる?」

彼女が一歩踏み出す。その手には、いつも以上に重厚な革表紙のテキスト。

「理論」で詰め、逃げ場を失ったところで「聖書(物理)」が飛んでくる未来が見えた。

だが、その時。極限状態の俺たちの脳裏に、ある「奇跡」が舞い降りた。

俺と弟は、無言で視線を交わした。

(やるか?)

(やるしかない)

俺たちは、手に持っていた最大級に熟れた実を、同時にH美の真っ白なブラウスに向かって解き放った。

放物線を描く赤い実。

スローモーションのように近づく「不浄な果実」を前に、優等生の目が驚愕に染まる。

それが彼女の胸元で弾けた瞬間、俺たちの『学校』における平穏な日々は、本当の意味で終わりを告げたのである。

その後、俺たちがどれほど「隣人愛」の欠如について説教(とガチの物理制裁)を受けたかは、今でも思い出すだけで背中が震える。

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